街の色
 奥沢2丁目 平井 彰子 

第55号 2014.4.28

 奥沢へ移り住み、はじめに珍しかったのが「踏切」です。二丁目は多くの踏切に囲われた場所でしたから驚きました。なにしろ生まれ育った麻布では踏切なんぞ見たことない、電車だって地中の奥深くです。今年は一人っ子の娘がめでたく成人するから、その2年前のことですなぁ。

 静かな奥沢は遠くの踏切や電車の音が耳に届きます。「私は此処で死ぬのだわ」とコロコロコロと楽しそうに笑う祖母が居ました。窓からいっぱいに陽の入る和室や大きな堀炬燵で「話」をしてくれます。嫁に来てから初めての転居だとか、自分はせっかちだから人に厳しい、だとか聴いたかなぁ。

 生まれた街の六本木・麻布界隈は交差点あたりを中心には賑やかですが、奥まるとそうでもないところです。殊のほか緑が多いし、土日なんて自由ヶ丘とは比べ物にならないほど静かでのんびりした空気、良い街なのです。じゃぁ、夜と昼ではどうなのだと言われれば、毎朝、昨夜の喧噪はどこへ行ったのやら、ひっそりと静かでしたねぇ。子供でいながら、秘めやかな、うそつきな、夢を見る街を茶化しながら見ていたような気がします。

 ここ奥沢は真っ当なイメージでこれまた魅力的な街です。父は母と散歩をしたり、お買い物に出かけたり、こっそり孫を連れて美味しいものを食べに出かけたりしていました。ここには大きなビルがない、首都高がない、なんだか牧歌的にも感ずると楽しんでいましたね。江戸からの老舗などに出向いて遊んでいましたが、奥沢は拠点に相応しいものだねと、on・off切り替えていたようです。青い空と、家々の間の緑、グレーがかった夕暮れが、二つの拠点で以外にも相通ずる「色」でしょうか。東横線で繋がって、南北線でも繋がれる六本木・麻布に祖母と父は眠っています。夜は賑やかでゆっくり眠ってもいられないのかしらん。