九品仏川の風景
 奥沢2丁目 藤田 武

第18号 2005.1.15

 私達の年代の悪餓鬼は遊び場と遊びの種類には事欠かなかった。鬼ごっこ、缶けり、三角ベース、やっつけっこ、めんこ、凧揚げ、べい独楽、蝉取り、トンボつり、泥鰌掬い、ザリガニつりetc.

 その遊びの一つが九品仏川である。淨真寺(九品仏)の裏に九品仏池(中ノ島があり貸しボートが出るほど大きな池)があり、そこから流れ落ちる水と湧き水を集めて小さな川(現在は遊歩道となっていて、八幡中学の傍から自由が丘を通り緑ヶ丘駅を経由して東京工大の隣で呑川と合流する所まで)が流れており、その両岸に側道があり桜が植えられ、四季を通じて自然の豊かさを感じさせてくれた。

 その流域は広くは無いが未だ田圃や畑が多く、私の家の下は畑でその真ん中に斜面から湧き出た水が溜まって出来た三角池があり、そこにはイモリ、泥鰌、ザリガニ、クチボソ、めだかetcが棲みかとしていた。

 この九品仏川の水質はすこぶる良く、全体に川藻が密生し九品仏池から流れ出てしまうのか、鯉、鮒、鰻、スッポン等が生息していた。両岸は橋の周辺だけ土留めがしてあるが、他は自然の法で草や藪で生物の棲息には持って来いの場所でもあったのではないか。川面は桜の木の木漏れ日でキラキラ輝き、その水面の上を鬼ヤンマが悠然と雄飛し、その傍らをお羽黒トンボはハタハタと忙しそうに飛び交うという風景である。そこへ、兄貴と私が大きなタモで、鯉や鮒を捕りに入る。私はちびっ子で淀みに入ると胸まで浸かってしまう。茂みの下流にタモを置き、上流側から足で蹴ると隠れていた魚は下流側に逃げる。そこにくだんのタモが待ち構えている。「バシャッ」 一尺以上ある鯉だ。毎回かなりの戦果があり戦後の食糧事情の悪い時でもあったの で我家の食卓の足しにもなり、実益を兼ねた遊び場でもあった。

 この九品仏川は姿を変えて自由が丘周辺の遊歩道では若いカップルで溢れており、流れは流れでも、これもまた時代の流れであろう。