奥沢に生まれて
奥沢5丁目 平松 久幸

第49回 2012.11.1

 私は昭和39年、東京オリンピックの年に奥沢に生まれました。祖父がこの土地で理容店を開業し、父も2代目として家業を継ぎました。そして私も家業を継ぐため、7年間他の土地で修業をし、いよいよ自分の育ったこの奥沢に戻り、3代目としてお客様の大切な髪を触らせていただき22年の月日が流れました。

 思い返せば、先代から受け継いだ店とはいえ、こんな若僧を温かく受け入れて下さった、奥沢の皆様に感謝せずにはいられません。私のサロンには祖父の代のお客様が、息子さん、お孫さんと私と同じく3世代にわたりご来店して下さる方が大勢います。凄い事だと思いませんか。また、半世紀以上、足を運んで下さる方もいらっしゃいます。

 先日享年70歳で他界された地井武男さんもその一人です。地井さんは20歳のころ俳優学校に通うため上京し、この奥沢に15年間住んでいらっしゃいました。よく当時の話をして下さりました。桜の木や柿の木、びわ、栗、みかんの木が庭にある家が多かったそうです。奥沢神社には何かあるごとにお参りしたそうです。奥沢を離れてからも御嬢さんの七五三など足を運んだそうです。そういえば「ちい散歩」で2回ほど奥沢を紹介していましたよね。地井さんも奥沢を愛した一人だったのですね。私に息子が生まれてからは「4代目にカットしてもらうのが楽しみだな」と口癖のようにおっしゃっていました。今では叶わぬ夢になってしまいました。

 取り留めのない話をしましたが、この町は何ていい町なんだろうと心から思います。長年ここに住んでおられる方も、新しく縁あって移りすまれた方も、大好きな町だと思います。これからもそんな素晴らしい方たちに触れながら、また次の世代へと奥沢を伝えていかれるよう頑張ろうと改めて思います。